日本語を英語にする。
料理名を英語でも書く。
営業時間や場所も英語で載せる。
もちろん、必要なことです。
でも、制作を進めていると、いつも少し気になります。
英語を添えれば、それで伝わるのだろうか。
読めることと、選べることは違う。
最近、ホテル内の日本料理店で、訪日客向けの館内案内や日英表記のメニューを制作しました。
英語があれば、書いてある内容は読めるようになります。
ただ、その人が店を利用するかどうかは、また別の話です。
どんな料理なのか。
いくらなのか。
自分が利用できる時間なのか。
店はどこにあるのか。
一人でも入りやすいのか。食事の場面を想像できるのか。
言葉が分かっても、判断に必要な情報が見つからなければ、選ぶことはできません。
これは訪日客に限った話ではありません。
日本語の販促物でも、情報は書いてあるのに、次にどうすればいいのか分からないことがあります。
写真には、翻訳できないことを任せる。
料理の名前は、英語にできます。
でも、名前だけで量や盛り付け、店の雰囲気まで伝えるのは難しい。
そこで写真が必要になります。
写真なら、料理の姿が一瞬で分かる。
店がどのような時間を提供しようとしているのかも、言葉より先に感じてもらえるかもしれません。
ただし、写真を大きくすればいいということでもありません。
料理の写真を見て興味を持ち、価格を確認し、営業時間を見て、場所を知る。
その順番が紙面の中で自然につながっているか。
写真と文字を別々に考えるのではなく、一つの判断の流れとして組み立てる必要があります。
ホテルの中にあっても、店の存在は自動では伝わらない。
ホテルの中に飲食店があれば、宿泊している人は自然に気づいてくれる。
そう考えたくなります。
でも、宿泊することと、そのホテルのレストランを利用することは同じではありません。
部屋に入る。荷物を置く。外へ食事に出る。スマートフォンで近くの店を探す。
そんな選択肢の中に、館内の店も入れてもらわなければなりません。
だから、案内物には料理だけでなく、店が館内のどこにあるのか、どんな場面で使えるのかも必要になります。
おいしそうに見せることと、そこへ行けるようにすること。
どちらか一方では、来店まで届かないのだと思います。
翻訳ではなく、迷いを減らす仕事。
広告の仕事を30年以上やってきました。
日本語のコピーを考え、写真を選び、情報の順番を決める。
やっていることは、訪日客向けでも大きくは変わりません。
誰が、どこで見るのか。
何を見て興味を持つのか。
何が分かれば、次に進めるのか。
違うのは、こちらが当たり前だと思っていることを、当たり前として扱えないことです。
料理名を知っている。店の形式を想像できる。館内表示の読み方が分かる。
そんな前提をいったん外してみる。
すると、英語を載せることより先に、整理しなければならないことが見えてきます。
日英表記は、入口にすぎない。
英語は必要です。
でも、英語があることを完成条件にはしたくありません。
写真を見て、少し気になる。
内容と価格が分かり、自分に合うか考えられる。
場所が分かり、迷わず向かえる。
その流れが整って、ようやく案内として働き始めます。
今回制作したものが、実際にどう見られ、どこまで来店につながったのか。
そこは、まだ数字で確認できていません。
だから、日英表記にしたことだけを成果とは言えません。
伝えたつもりで終わらず、本当に選びやすかったのかを見る。
訪日客向けの販促も、結局はいつもの広告と同じです。
言葉を置く仕事ではなく、迷いを一つずつ減らす仕事なのだと思います。
